
VTuber(バーチャルYouTuber)市場は近年急成長を遂げており、ファン向けのオリジナルグッズ販売は重要な収益源かつファンサービスとなっています。
本記事では、個人勢(個人で活動するVTuber)と企業勢(事務所所属のVTuber)の両方に役立つ、グッズ販売成功のポイントを解説します。VTuber市場の最新動向から、売れやすいグッズの種類、ファン心理、成功事例、制作から販売までの流れ、販売形態のメリット・デメリット、エンゲージメントを高める方法、さらに海外展開の可能性まで網羅します。
VTuber市場におけるグッズ販売の現状

VTuber業界は2016年末のキズナアイ登場以降急速に発展し、コロナ禍で需要が伸びたこともあり市場規模を拡大しています。2022年度の国内VTuber市場規模は約520億円と推計され、そのうちグッズ販売が267億円(全体の51.3%)を占めました。これはVTuberビジネスの中でグッズが最大の収益源であることを示しています。実際、大手VTuber事務所の決算を見ても、配信やイベント以上に「グッズ展開」が収益の柱になっており、「収益の多くはグッズから生み出されている」状況です。

VTuberグッズ市場は最も成長率が高いセグメントでもあり、VTuber人気の高まりとともに拡大を続けています。矢野経済研究所の調査によれば、2023年度のVTuber市場規模は前年度比153.8%増の約800億円に達する見込みとされ、これは同人誌市場(約800億円)やトレーディングカードゲーム市場(約792億円)に匹敵する規模です。ホロライブやにじさんじといった大手事務所が相次いで上場し、市場参入企業が増える中、公式オンラインショップの開設や海外配送対応の強化などトレンドも進んでいます。VTuberはキャラクターIPとしての側面とインフルエンサーとしての側面を持つため、キャラクターグッズ販売とファンとの双方向交流が組み合わさり、他のコンテンツにはないユニークな市場となっています。
売れやすいオリジナルグッズの種類や特徴
アクリルスタンド

VTuberグッズの定番としてまず挙げられるのが、アクリルスタンド(アクスタ)です。推しキャラをデスクや棚に飾れる立体的なフィギュア代わりとなり、デザインやポーズの自由度も高く人気があります。
VTuber界隈では「推し活グッズ」としてアクスタは超定番であり、新衣装のお披露目時にはその姿で新たなアクスタを発売するといった展開もよく見られます。例えばあるVTuberは自身のキャラクターアクスタをイベント限定販売し、大成功を収めました 。
缶バッジ

缶バッジも定番アイテムです。手頃な価格で収集しやすく、カバンや服に付けて「痛バッグ」(推しのバッジを大量に付けたバッグ)を作るファンも多いです。
缶バッジは丸形や四角形など種類も豊富で、ブラインド(中身ランダム)販売にすることで「コンプリートしたい」というコレクション欲を刺激し、まとめ買いするファンも少なくありません。実際、「推し」をアピールする痛バッグ文化も浸透しており、大量の缶バッジを付けて推しへの愛を示すファンも多いです。
アクキー・ステッカー・ポスター
その他にもアクリルキーホルダー(アクキー)やステッカー、ポスター・タペストリー、クリアファイル、Tシャツなどのアパレル、マグカップ・タンブラーといった日用品まで、多種多様なグッズ展開が可能です。
日常使いできるアイテム(マグカップ等)は普段グッズを買わないライト層にもアピールでき、長く使ってもらえるメリットがあります。一方でぬいぐるみやフィギュアのように単価が高めでもコレクション性のあるものも人気です。ホロライブ所属VTuberのスケールフィギュアが予約開始と同時に話題になるなど、クオリティ次第では高額商品も支持されます。
その他グッズ

ユニークなオリジナルグッズとしては、VTuber本人をイメージした香水なども登場しています。バーチャルで直接会えない推しの「香り」をグッズ化することで、まるで隣にいるかのような臨場感をファンに提供する試みです。
他にもコラボで生まれたお菓子やドリンク、文房具、電子デバイス(コラボモデルのイヤホン等)まで、そのVTuberの個性や世界観を反映したものが売れ筋になりやすい傾向にあります。「〇〇限定」「数量限定」と銘打ったライブイベント記念Tシャツや誕生日記念グッズセットも定番で、実例として別のVTuberは誕生日ライブに合わせた限定デザインTシャツをリリースし即完売させています 。
ファン心理と購買動機

VTuberグッズが売れる背景には、ファン特有の心理や購買動機があります。まず大きいのは「推し活」による応援の気持ちです。ファンは推しVTuberへの愛情や応援を形にしたいと思い、グッズ購入という形で貢献します。グッズを買うこと自体が「推しへの支援」になり、所有することで推しとのつながりを実感できるのです。特に事務所所属VTuberの場合、グッズ収益が活動の糧になるとファンも知っているため、「推しにお金を使うことは惜しまない」という文化もあります。

また、コレクション欲も大きな動機です。限定デザインやシリーズもののグッズは「全部集めたい」という欲求を刺激します。例えばランダム封入の缶バッジやトレカ、アクリルキーホルダーなどは推しを引き当てるまで購入を繰り返すケースもありますし、全種コンプリートのためにファン同士で交換し合うこともあります。「推しカラー違い」「第○弾」などバリエーション展開することでリピーター購買を促す手法も取られています。
さらに、購入後の体験価値も重要です。ある調査では、コアなファンの47.3%が「グッズを開封するとき」が最も楽しい瞬間だと回答しています。待ち望んだグッズが届き箱を開ける瞬間は、大きな喜びと高揚感をもたらします。これを演出するため、凝ったパッケージデザインやおまけ要素(メッセージカードやサイン入り当たり封入など)を仕込むこともあります。ファンは開封したグッズをSNSに写真付きで投稿し、自慢したり感想を共有する傾向も強く、VTuberファンの約9割が購入品をSNS投稿した経験があるとのデータもあります。このように、グッズ購入は**「開封体験」や「共有体験」**まで含めてファン活動の一環となっているのです。

日常で推しを感じたいという心理も購買を後押しします。アクスタを持ち歩いて写真撮影したり、推しのマグカップで朝コーヒーを飲むなど、生活の中に推しの存在を取り入れることで満足感を得ています。痛バッグで街に出かければ同好の士との交流のきっかけにもなり、ファンコミュニティの一体感も高まります。グッズを身に着けたり飾ったりすることは自己表現であり、同時に推しへの愛の発露なのです。
成功しているVTuberのグッズ販売事例
実際にグッズ販売で成功を収めたVTuberの事例から、いくつか学んでみましょう。
企業勢の成功例

大手事務所所属VTuberは大規模な展開で成功しています。例えばホロライブ所属VTuberは誕生日や記念日に受注生産の記念グッズセットを販売するのが通例で、人気メンバーの場合は注文が殺到してサーバーが重くなるほどです(発売直後にアクセス集中で購入できないファンも出るほど)。また、リアルイベントでの物販も盛況です。輝夜月(カグヤルナ)は2018年に初のVRライブを開催し、そのチケットが発売10分で瞬殺されるほどの人気でした。追加で行われた全国映画館でのライブビューイング会場では、各劇場限定の公式グッズ(輝夜月のキャラクターデザイナーMika Pikazo氏デザイン)を販売し、多くのファンがグッズ目当てに劇場に足を運びました。このようにライブ連動の限定グッズは大きな話題と売上を生みます。

にじさんじなどでも、コミックマーケット等の大型イベントに公式ブースを出展し、新作グッズを販売するたびに長蛇の列ができます。にじさんじ所属の加賀美ハヤトの誕生日グッズセット(キャンバスパネルやアクリルフォトフレーム等をセットにした豪華仕様)は1万円という価格にも関わらず多くの予約が入り、ファンの熱量を示しました。企業勢の場合、グッズの企画力や品質も高く、フィギュアなど本格的なアイテムやアパレルブランドとのコラボ商品まで展開し、ファン層を拡大しています。
個人勢の成功例

Live2D化プロジェクト【ショイ・キャロリーヌ】
規模は小さくとも工夫次第で大きな成果を出しているVTuberもいます。例えばある個人VTuberは活動半年記念にアクリルスタンドを制作し、通販サイトBoothで販売したところファンがこぞって購入し完売しました。また別の個人VTuberはクラウドファンディングでLive2Dモデル制作資金を募る際に、リターン(お礼)としてオリジナルグッズを用意したところ、多くの支援が集まり目標を大幅に超える成功を収めています。こうしたケースでは限定生産のレア感や「自分が推しを支えた証」がグッズとして手に入ることがファンの心を動かしました。

個人勢の場合、自身で企画・制作・販売のすべてを担う必要がありますが、その分ファンの声を直接反映しやすい利点もあります。例えば個人VTuberの九条林檎さんは、事務所所属から個人へ転向後に初めてグッズ展開を行いました。当初は特製ボックス入りのスペシャルグッズセットを制作し販売しましたが、発送時に箱が配送中に多数破損するトラブルが発生しました。林檎さんはすぐに箱素材を強化して作り直し再発送する対応を取り、結果的にファンの信頼を得つつ完売にこぎつけました。この経験を自身で公表し「梱包や素材選びの大切さ」を共有したことで、むしろファンから応援の声が集まりました。失敗から学び改善した姿勢も含めてファンとの絆が強まり、その後のグッズ展開も好調だったといいます。
以上の事例から、タイミング(記念日やイベント)を逃さない企画や限定性による希少価値付与、ファン視点に立ったアイテム選び、そして誠実な対応が成功の鍵とわかります。「グッズがファンの期待に応え、タイミングよくリリースされること」が重要で、さらにキャラクターの個性やストーリー性を反映したグッズはファンの心をつかみやすいと言えます (Vtuberオリジナルグッズを作ろう!ファンとの間に強い絆が繋がる秘訣 | ノベルティの春夏秋冬)。
企画・デザイン・制作・販売までの流れと注意点
VTuberオリジナルグッズを制作・販売する流れは、大きく以下のステップに分けられます。
まずどんなグッズを作るか決定します。ここでは「自分が作りたいもの」と「ファンが欲しいもの」の重なる部分を見つけるのがポイントです。過去のファンからのリクエストや、アンケート、配信での反応などを参考に、VTuberのキャラクター性や名台詞・モチーフを活かせるグッズを考えましょう。例えば可愛いマスコットキャラがいるVTuberならぬいぐるみやキーホルダー、音楽活動が盛んならCDやペンライト、といった具合です。記念日やイベントに合わせた企画も効果的で、誕生日なら記念セット、周年なら過去衣装集合ポスターなどコンセプトを明確にします。
次にグッズのデザインを準備します。VTuber本人や関係イラストレーターがデザインを担当する場合もありますが、クオリティ確保のためプロに依頼するのも一手です (個人Vtuberがオリジナルグッズを制作・販売する方法)。デザインはグッズの出来を左右する重要要素です。アクリルスタンドやキーホルダーなら立ち絵イラストが必要ですし、Tシャツ等はロゴやグラフィックを考える必要があります。グッズ用に描き下ろしイラストを用意できればファンの注目度も高まります。また、色校正(印刷色の確認)やサイズ感など、実物をイメージしながら細部を詰めましょう。デザイン段階で著作権や版権にも注意します(自分のキャラ以外の要素を入れる場合などは許可が必要)。
デザインが決まったら、実際のグッズ制作を業者に発注します。少部数で手軽に作りたい場合はpixivFACTORYやSUZURIといったプリントオンデマンドサービスが便利です。画像データ1枚あれば1個からでも作成でき、在庫を持たず販売できます (個人Vtuberがオリジナルグッズを制作・販売する方法)。例えばpixivFACTORYではBoothと連携しており、発注から販売までワンストップで可能です。九条林檎さんも「pixivFACTORYで発注→Boothで販売」という流れで初期費用と手間を大きく削減したと述べています。一方、ファンの数が多くある程度の数量を見込める場合は専門のグッズ制作会社に依頼して一括生産する方が単価が安く品質も安定します。制作会社選びでは、過去の実績(オタク向けグッズの経験)や価格、納期を比較しましょう。発注時には予備を少し多めに作ることも検討します(不良品や予想外の追加需要に備えるため)。
完成したグッズが届いたら、必ず検品します。印刷ミスや破損がないか、数量は合っているかを確認しましょう。特にアクリル系は傷や汚れがないか、衣類ならサイズ間違いがないかなど要チェックです。個人で大量の検品は大変ですが、ここを怠ると後でクレーム対応に追われる可能性があります。万一不良があれば早めに業者に連絡し交換対応を依頼します。
次に販売方法を決定し準備します。オンラインで売る場合、通販サイト(Booth、Stores.jp、自社サイトなど)に商品ページを作成し、写真や説明文、価格を掲載します。商品の魅力が伝わる写真を用意し、サイズ・素材・注意事項(例:注文から発送まで○週間かかる等)を丁寧に記載しましょう。決済方法も確認します(クレジットカード、コンビニ決済、PayPalなど)。イベント会場で売る場合は、在庫の運搬や陳列方法、釣銭やレジ対応の準備も必要です。
いよいよ販売開始です。受注販売の場合は受付期間を設け、その期間に集まった注文分をまとめて生産・発送します。即納在庫販売の場合は売れた分を順次発送します。個人の場合、発送作業も自分で行うことが多いですが、注文数が多いときは発送代行サービスやBoothの倉庫サービス(あんしんBOOTHパック)などを活用すると良いでしょう。梱包の際はグッズが壊れないよう十分な緩衝材を入れ、天候で濡れないようビニールで包むなど配慮します。先述の九条林檎さんのケースでは特製ボックスの強度不足で破損が相次ぐトラブルがあり、発送前の梱包テストの重要性が浮き彫りになりました。重い物は分ける、箱の材質を吟味するなど、配送中の事故を想定して準備しましょう。
この一連の流れの中で、注意すべきポイントを整理します。
- 費用計算と価格設定: グッズ制作には原価がかかります。デザイン費、制作費、送料や手数料などを合計し、赤字にならないよう価格設定をします。特に個人VTuberは利益より「作りたい気持ち」で走りがちですが、最低限コスト回収できるようにしましょう。プラットフォーム手数料(Boothなら約10%弱)も考慮します。とはいえ高すぎるとファンが手を出しづらいので、手頃なラインと採算のバランスが肝心です。
- スケジュール管理: 記念日に発売したい場合は逆算して準備を進めます。制作に思った以上に時間がかかることも多く、納期遅延は致命的です。余裕をもったスケジュールを組みましょう。また複数のアイテムを同時に作る場合、印刷所ごとの納期差にも注意します。例えばキーホルダーは早くできてもTシャツが遅れる、といったことがあるためトータルで発売日に間に合うよう調整が必要です。
- 品質と信頼: ファンに届けるものなので品質には徹底的に気を配ります。初回はテスト的に小ロット生産し、自分で使ってみて問題ないか確かめても良いでしょう。何か不具合が起きた場合は迅速かつ誠実に対応することで、むしろ信頼が高まります。グッズはファンとの大切な接点なので、いい加減な対応をすると信用を失いかねません。逆に、丁寧な仕事ぶりを示すことで次も買いたいと思ってもらえるでしょう。
通販サイトや受注販売・在庫販売のメリット・デメリット
VTuberグッズを売るにあたり、「どこで・どう売るか」も重要な戦略です。主な販売形態として、通販サイトでのオンライン販売とリアルイベント等での対面販売があります。また、生産方式として受注販売(予約を取ってから生産)と在庫販売(あらかじめ在庫を用意して販売)があります。それぞれメリット・デメリットがあるので整理しましょう。
オンライン通販サイトで販売

メリット: 全国・全世界のファンにリーチできるのが最大の利点です。時間や場所に関係なく注文できるため、地方や海外のファンでも入手可能になります。プラットフォームも充実しており、Booth(ピクシブ連携のマーケット)はクリエイター御用達で、グッズ登録から決済・発送(あんしんBOOTHパック)まで簡便に行えます (どこで販売する? 手軽さや連携サービスではBOOTHが魅力的 …)。他にもSUZURI(在庫なしでアパレル等販売可能) (VTuberのグッズ販売といえばSUZURI)やShopifyを使った自前サイト、Stores.jpなど選択肢が多く、手数料も比較的安価です。匿名配送などファンのプライバシー配慮もでき、販売者側も住所を公開せずに済みます。オンラインなら在庫管理も容易で、在庫数を見ながら販売調整が可能です。
デメリット: ネット注文には送料がかかるため、商品価格が安い場合は割高感が出ます。また発売開始時にアクセスが集中するとサーバーダウンの恐れもあります(特に大手VTuberでは毎回のように公式ショップが混雑します)。さらに、実物を手に取れないため写真や説明で魅力を伝えきる必要があります。梱包・発送作業も手間で、数が多いと個人では対応しきれない場合があります(その際は物流代行の検討が必要)。決済手段も複数用意しないと「クレカを持っていない若年層ファンが買えない」こともありえます。つまり利便性と技術面の課題をクリアする工夫が求められます。
リアルイベントや店舗で販売

メリット: ファンと直接対面して販売できるため、熱量が伝わりやすく付加価値があります。イベント会場限定特典(その場でサイン入れ等)を付けたり、一緒に写真を撮れる企画など体験型のサービスも提供できます。即売会ならその場で商品を手渡せるので送料もかからず、ファンはすぐに手に入る喜びがあります。列に並ぶ高揚感や仲間との交流も含めてイベントそのものが思い出となり、グッズに対する愛着も増します。また、イベントによっては新規ファンの目に留まるチャンスにもなります。
デメリット: 地理的に行けないファンには行き渡らない点と、準備できる数に限りがある点です。持ち込んだ在庫が完売するとその場に来たのに買えない人が出る一方、余れば持ち帰るリスクもあります。在庫読みが難しく、売り切れた場合のフォロー(後日通販など)も考えねばなりません。また、人手やコストもかかります。地方イベントに出向くなら旅費や宿泊費、売り子スタッフが必要です。天候等の影響も受け、最悪イベント中止だと販売機会自体が失われます。以上から、イベント販売は高コスト・ハイリスクだがリターンも大きいという特徴があります。
受注生産(予約販売) vs 在庫販売

受注生産(予約受付後に生産):
- メリット: 需要に応じた数だけ生産するため在庫リスクがありません。売れ残りや大量廃棄の心配がなく、資金繰りも安定します。ファン側も確実に入手できる安心感があります(期間内に予約すれば品切れの心配がない)。また、注文確定後に製造するのでグッズの改良(予約状況を見て仕様追加)や追加特典(◯個以上予約で特典付与など)の施策も取りやすいです。
- デメリット: ファンは商品到着まで待つ期間が発生します。予約締切からお届けまで数ヶ月かかることもあり、熱が冷めてしまう可能性もあります。運営側も、一度キャンセル不可で予約を取るため、想定外のトラブル時(製造遅延など)の対応プレッシャーがあります。また受注期間を逃した新規ファンが後から欲しがっても手に入らず機会損失になることもあります。販促面では「今すぐ買える」即時性に欠けるため、予約開始時にしっかり盛り上げを作らないと注文が集まりにくい難点もあります。
在庫販売(作り置き販売):
- メリット: 販売開始後すぐ発送・お届けができるため、ファンを待たせません。特に衝動買いや新規ファンの取り込みに有効で、「欲しい」と思った時にすぐ買えることは売上機会の最大化につながります。イベント等では現物を見て品質確認してから買える安心感もあります。また、売れ行きが好調なら即座に追加発注して増産対応するなどフレキシブルな動きもできます。
- デメリット: 売れ残りリスクを常に抱えます。読めずに作りすぎると在庫を抱え資金を圧迫し、逆に少なすぎると品切れ続出でファンを逃がす恐れがあります。在庫品の保管場所や管理コストもかかり、個人では自室を倉庫代わりにすることもしばしばです。在庫処分のためにセールせざるを得ず利益が出ないケースもあります。また前金で製造するため初期費用が大きく、完売しないと赤字になるリスクがあります。
総合すると, 規模が小さいうちは受注生産型で安全運転し、ファン層拡大に伴い一部在庫販売(イベント用など)を組み合わせるのが良策でしょう。幸い現在はpixivFACTORYやSUZURI等により無在庫・オンデマンド販売が個人でも可能になっています (在庫リスクなしのグッズ製作!注目のプリントオンデマンドサービス)。これらを活用すれば在庫を持たずにファンが欲しいタイミングで随時作ることもできます。一方で大規模プロジェクト時には予約+数量限定生産を併用し、「予約逃した人向けに少量店頭販売」などハイブリッドな展開も考えられます。重要なのは、自分のファン規模・資金力に合った手法を選び、メリットを最大化しつつデメリットを補う工夫をすることです。
ファンとの交流を高める販売方法
グッズ販売は単に物を売るだけでなく、ファンとのエンゲージメント(絆や交流)を深める機会でもあります。創意工夫した販売方法でファンのワクワク感を高め、コミュニティを活性化させましょう。
- 期間・数量限定販売: 期間限定や○個限定といった希少性演出は定番の手法です。限定と聞けばファンは「今買わないと二度と手に入らないかも」と感じ購買意欲が刺激されます。ただし限定が常態化しすぎると転売を招いたり、一部ファンに行き渡らない不満も出るのでさじ加減が必要です。上手く使えば「◯周年記念1週間限定発売」「イベント会場限定グッズ」のように特別感を演出でき、ファンの思い出づくりにもなります。

- 抽選販売・オンラインくじ: 人気が高すぎて全員に行き渡らない場合、抽選販売(応募者から抽選で購入権を与える)にすると公平性が保てます。最近ではVTuber個人勢向けに**オンラインくじ(くじ引き)**サービスも登場しており、チケットを購入するとランダムで景品グッズが当たる仕組みになっています (ぶいなっぷ – Vup オンラインくじ|ここでしか手に入らない限定 …)。これは遊び要素が強く、ファンはガチャ感覚で楽しめる上に「ここでしか手に入らないレアグッズ」が当たるかもというドキドキ感で盛り上がります。実際、「ぶいなっぷ(Vup)オンラインくじ」など多数の個人VTuberが期間限定オンラインくじを開催し、ファンがコレクションに奔走しています (翠音ちこ オンラインくじ – kuji-made)。抽選やくじは外れた人へのフォロー(例えばハズレでもデジタル特典をあげる等)も考えると良いでしょう。

- コラボ商品: 企業コラボによるグッズ展開もエンゲージメントを高めます。例えば飲食チェーンとタイアップして○○コラボドリンクと限定コースターを作る、アパレルブランドとコラボして推しカラーのファッションアイテムを出すなどです。企業コラボはVTuber側だけでなく相手企業のファン層にもリーチでき、お互いのブランド価値を高めます。近年はアイドルや声優と同様にVTuberが広告塔となるケースも増え、VTuber本人がコラボ商品のレビュー配信を行うといった取り組みも実現しています。個人勢でも、同人グッズ作家とコラボしてオシャレなアクセサリーを出す、といったことが可能です。コラボは話題性抜群でニュースサイトに取り上げられることもあり、新規ファン獲得にも寄与します。

- 限定特典・イベント連動: グッズ購入者対象の抽選イベントや限定コンテンツ配布もエンゲージメント向上に有効です。例えば「グッズ購入者限定配信」や「抽選でサイン入りグッズプレゼント」「購入額○円以上で非売品ステッカープレゼント」といった施策です。ホロライブなどでは一定額購入毎にブロマイドがもらえる企画などを行っています。さらに、スタンプラリー的に「◯回グッズ買ったら〇〇達成」などゲーム性を持たせるのも面白いでしょう。リアルイベントならお渡し会(VTuber中の人が直接渡すイベント)や展示コーナーを設けてフォトスポットにするなど、一体感を演出します。
- SNS連動企画: 購入後、ファンがSNSでシェアしたくなるような仕掛けも検討しましょう。ハッシュタグキャンペーンを張り、「#〇〇グッズ開封」タグで投稿促進し、VTuber本人がエゴサして「いいね」したりリツイートするだけでもファンは喜びます。先述の通りVTuberファンは情報感度が高くシェア意欲も旺盛ですから、SNS上で祭り感を作れば口コミで認知拡大も期待できます。
このようにグッズ販売をイベント化・物語化することで、単なる物販以上の盛り上がりを創出できます。大切なのは、ファンに驚きや楽しさを提供する視点です。限定感やゲーム性、コラボの新鮮さなどを上手く取り入れ、グッズが届くまでの期間も含めてファンにとって幸せな体験となるよう工夫しましょう。
海外展開や言語対応などの可能性
VTuberはそのデジタル性から海外ファンも多く抱えています。グッズ販売でも海外展開を視野に入れることで、さらなる市場拡大とファン獲得が見込めます。
大手事務所の海外展開: ホロライブプロダクションやにじさんじなどは公式ショップで海外配送に対応し始めています。例えばホロライブは2021年に公式オンラインショップを開設後、翌年には米国・カナダ・メキシコを皮切りに配送地域を13ヶ国まで拡大しました (ホロライブプロダクションの公式オンラインショップ「hololive production OFFICIAL SHOP」、4/27より海外配送エリアを拡大 | PANORA)。現在では欧州やアジア各国にも発送可能となり、多くの海外ファンが公式グッズを直接購入できるようになっています。またBrave group(VKetやRIOT Music運営)は東南アジアに現地法人を設立し、タイでVTuberグッズのポップアップショップを開催するといった取り組みも出てきました。このように企業勢は組織力を活かして国際物流や現地イベント参入を進めています。
個人勢の海外対応: 個人VTuberでも海外ファンが付くことは珍しくありません。言語の壁を越えグローバルに活動するVTuberも増えています。個人で海外展開をする場合、まずオンライン通販で海外発送に対応する方法があります。pixivFACTORY直送は日本国内限定ですが、海外転送サービス(Tensoなど)を利用すれば海外からBooth購入が可能と案内されています。ある程度ニーズがあるなら、思い切ってEtsyやShopifyで英語対応ショップを開設し、Printfulなど海外プリントオンデマンドサービスと連携して現地生産・発送する方法もあります (プリント オン デマンド会社9選:オンデマンド印刷サービス – Shopify) 。これなら送料や関税のハードルを下げ、海外ファンも気軽に買えます。
多言語対応の情報発信: 海外展開で重要なのは言語のサポートです。商品ページや告知を英語(場合によっては中国語やスペイン語など主要言語)で併記すると、海外ファンにも親切です。特に購入フローや注意事項は英語で用意しておくとトラブルが減ります。SNSでも英語ハッシュタグや翻訳ツイートを活用すると良いでしょう。ホロライブENやにじさんじENのメンバーが活躍する今、多言語で同時展開するケースも増えてきています。例えばグッズ名やデザインに各国語をあしらう、海外記念デザインを作る、といった工夫も考えられます。
現地イベントやコラボ: 人気が高まれば、海外のイベント(Anime Expoやゲームショウ等)に出展して直接物販する機会も生まれます。実際ホロライブはAnime Expoなど海外コンベンションで公式ブースを展開し、新商品を発売した例があります。海外のオタクショップと提携して店頭販売することも可能でしょう。また、海外のクリエイターとのコラボグッズは現地ファンの心をつかむのに有効です。地域限定グッズなどを用意すればレア度も増し、コレクター魂をくすぐります。
注意点としては、物流コスト・関税などの問題があります。輸送費が高く商品の何倍にもなると買い控えられてしまいますし、国によっては関税や規制で届かないものもあります。価格設定や配送業者選定で最適解を探る必要があります。また、海外では決済手段も異なるため(クレジットカード文化のない地域も)、PayPalなど国際的に使える決済オプションを用意すると親切です。
総じて、VTuberグッズの海外展開は可能性が大いに広がっている分野です。世界中にいる「推し活」ファンにリーチすることで、VTuber自身のブランド価値も向上します。言語の壁さえ乗り越えれば、文化の共有がしやすいキャラクターグッズは国境を越えて愛されるでしょう。既に日本のVTuberグッズを扱う海外向け通販サイトも登場しており (国内随一!人気VTuberのグッズが揃う通販ショップ『VTempo』が …)、今後この流れは加速すると見られます。個人勢でもSNSを通じて海外ファンとの交流が日常的になっていますから、機会があればグローバル展開に挑戦してみる価値は十分あります。
まとめ
VTuberのオリジナルグッズ販売は、市場全体が拡大傾向にあり大きなチャンスです。成功の秘訣は、市場動向を捉えた計画、ファン心理への深い理解、そして丁寧なものづくりとコミュニケーションにあります。グッズはVTuberとファンをつなぐ架け橋です。個人勢は小回りを活かしてファンと二人三脚で挑戦し、企業勢はスケールメリットで質と量を追求しつつ、それぞれの強みでファンの期待に応えていきましょう。世界中のファンに喜んでもらえるグッズを届けることで、VTuberとしてのブランドとコミュニティは一層強固なものとなるはずです。あなたもぜひ、自分らしいオリジナルグッズ展開でファンとの絆を深め、VTuber活動をさらなる高みへと導いてください。
参考文献・出典:
- 矢野経済研究所 「VTuber市場に関する調査を実施(2023年)」 (キャラクターの姿をした配信者「VTuber」がいま注目のワケ | 東証マネ部!)
- トランスコスモスECX「Vtuberから見る商品販売とバズリの極意」
- ウルロジ「Vtuber・YouTuber必見!オリジナルグッズの販売方法と注意点やポイント」
- ノベルティの春夏秋冬「Vtuberオリジナルグッズを作ろう!ファンとの間に強い絆が繋がる秘訣」 (Vtuberオリジナルグッズを作ろう!ファンとの間に強い絆が繋がる秘訣 | ノベルティの春夏秋冬)
- マナミナ(ディーエムソリューションズ調査)「『推し』のグッズに関する情報収集は公式SNSアカウントから!」
- Musicman「VTuber・輝夜月、初VRライブのLV会場で限定販売する公式グッズ発表」
- 九条林檎氏 Note「個人Vtuberによるグッズ制作失敗録」
- PANORA「ホロライブ公式ショップ、海外配送エリアを拡大」 (ホロライブプロダクションの公式オンラインショップ「hololive production OFFICIAL SHOP」、4/27より海外配送エリアを拡大 | PANORA)